火星を何日も観察すると、星座の中を進んでいたはずなのに、途中で引き返したように見えることがあります。この不思議な動きが惑星の逆行です。
太陽のまわりを回る惑星が、突然ブレーキをかけて逆走するのでしょうか。答えを知る鍵は、観察している私たちの地球も動いていることにあります。
地球とほかの惑星が、それぞれ異なる軌道を異なる周期で公転するためです。火星の場合、内側を回る地球が火星を追い越す前後に、背景の星に対して火星が逆向きに動いて見えます。
惑星の逆行とは?星座に対する動きのこと
ここでいう逆行は、背景の恒星に対して、惑星が東から西へ移動して見えることです。反対に、西から東へ進んで見える動きを順行と呼びます。
一度空を見ただけでは、向きを確かめるのは難しいでしょう。何日も間隔をあけて惑星の位置を記録し、同じ背景の星と比べると、その移動が分かります。
国立天文台の火星の位置を説明したページにも、順行から逆行へ、そして再び順行へ戻る実際の経路が掲載されています。これは2020年の観測案内ですが、動きを理解する図として参考になります。
火星が逆走して見える仕組み
地球も火星も、太陽のまわりを進んでいる
地球は火星より内側の軌道を回り、公転周期も短いため、太陽のまわりを先に一周します。この違いによって、地球が火星に追いつき、追い越す時期が繰り返し訪れます。
大切なのは、火星だけを動かして考えないことです。観察地点である地球も移動するので、地球から火星へ向かう視線の方向が変化します。
追い越すと、背景に対する方向の変化が逆転する
同じ方向へ走っている別の車を、自分の車が追い越す場面を想像してください。相手は前進を続けていても、自分から見ると後ろへ下がって見えます。
惑星の場合は二台とも曲がった軌道を進むので、道路の例と完全に同じではありません。ただ、「相手の本当の進行方向」と「動いている自分から見た方向の変化」が違うことを考える助けになります。
NASAの2022年10月の天文解説も、地球を内側の速いコース、火星を外側の遅いコースとして説明しています。地球が火星を追い越すのは約26か月ごとで、その前後に火星の見かけの逆行が起きます。
火星が実際の公転方向を反転させるわけではありません。地球と火星を結ぶ線を背景の星空まで延ばし、その線が日ごとにどちらへ向くかを考えると、仕組みを整理できます。
順行・逆行・留はどう違う?
惑星の動きは、突然向きを切り替えるようには見えません。星座に対する移動がだんだん小さくなり、ほとんど止まったように見えたあと、反対向きへ変わります。この切り替わりが留(りゅう)です。
| 呼び名 | 背景の星に対する見かけの動き | 意味 |
|---|---|---|
| 順行 | 西から東へ進む | 通常よく見られる向き |
| 逆行 | 東から西へ進む | 順行と反対へ戻るように見える |
| 留 | 東西方向の移動がほぼ止まる | 順行と逆行が切り替わる境目 |
一般向けには「惑星が止まって見える」と説明されますが、厳密には国立天文台の暦では、天球上の座標である赤経の時間変化がゼロになる瞬間を留としています。惑星そのものが宇宙空間で停止するという意味ではありません。出典:国立天文台暦計算室「こよみ用語解説:天象」。
一晩のうちに西へ動くこととは違う
「星は東から西へ動くのでは?」と思うかもしれません。その一晩の見かけの動きは、主に地球の自転による日周運動です。
日周運動では、惑星だけでなく背景の星々も一緒に動いて見えます。これに対して、逆行で注目するのは、何日もかけて背景の星に対する惑星の位置がどう変わるかです。
地平線に対して西へ動いたから逆行だと判断せず、近くの恒星との並びを基準にしましょう。日周運動の定義は、日本天文学会「天文学辞典:日周運動」を参照しています。
火星以外の惑星も逆行する?
木星や土星など、地球より外側を回る惑星にも見かけの逆行があります。これらは地球が外惑星を追い越す際に起こります。
一方、地球より内側を回る水星や金星も逆行します。こちらは、内惑星が地球を追い越す際の見かけの運動です。外惑星と内惑星では、どちらが追い越す側なのかが入れ替わります。
ただし、水星や金星は空で太陽から大きく離れないため、背景の恒星と比べる観察は容易ではありません。国立天文台の暦Wiki「惑星/留」は、内惑星と外惑星の両方について、地球から見た方向の変化を図で説明しています。
「逆行自転」や「逆行軌道」とは別の話
天文学では、同じ「逆行」という言葉でも、何を基準にするかで意味が変わります。この記事で扱っているのは、地球から見た見かけの逆行です。
たとえば、金星の逆行自転は、惑星そのものが回転する向きについての話です。また、ほかの天体と反対向きに公転する軌道を、逆行軌道と呼ぶ場合もあります。これらを、火星が星空の中で引き返して見える現象と混同しないようにしましょう。出典:日本天文学会「天文学辞典:逆行」。
逆行を理解する観察のコツ
星図で対象の惑星を確認し、近くの明るい恒星との位置関係を数日おきに記録すると、背景に対する変化を追えます。記録する日付と時刻も一緒に書いておきましょう。
同じ空の方角に見えるかどうかより、「どの星のそばにあるか」を比べることがポイントです。星図アプリを使う場合も、日付を変えた画面で恒星との並びに注目すると、順行・逆行の違いを確かめやすくなります。
地球が動くことで星の見える位置が変化する別の例は、年周視差で星までの距離を測る仕組みにもあります。また、光行差による星の見え方のずれは、光の速さと観測者の運動が関わる現象です。同じ「位置が変わって見える」でも、原因はそれぞれ異なります。
逆走しているのは軌道ではなく、見かけの動き
惑星の逆行を考えるときは、地球も太陽のまわりを移動していることを思い出してください。火星では、地球が追いついて追い越す前後に、恒星を背景とした動きが逆向きに見えます。
順行、留、逆行という空の変化には、観察者自身の運動が映り込んでいます。遠い惑星の動きは、地球がどのように宇宙を進んでいるかを知る手がかりにもなるのです。


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