星までの距離は、どうやって測っているのでしょうか。巻き尺を伸ばすことも、宇宙船で一つひとつ往復することもできません。それでも天文学者は、星の見える位置のわずかな違いから距離を調べています。
その基本となるのが年周視差(ねんしゅうしさ)です。地球が太陽のまわりを回ることを、宇宙の距離を測るために利用します。
年周視差は、地球の公転によって星の見える方向が1年周期でずれる現象と、その大きさです。近い星ほどずれは大きく、遠い星ほど小さくなります。距離を求める式では、最大の往復幅ではなく、その半分の角度を使います。
年周視差をわかりやすく説明すると?
顔の前に指を立て、右目と左目を交互に閉じてみてください。背景に対する指の位置が、左右に動いたように見えます。指を近づけると、そのずれは大きくなります。
指そのものが左右へ飛び移ったのではありません。見る場所が変わったため、背景と重なる方向が変化したのです。このような、観測する位置による見え方の違いを視差といいます。
年周視差では、左右の目の代わりになるのが、公転軌道上の異なる場所にある地球です。より遠方の天体を背景の基準として、対象の星がどの方向に見えるかを比べます。
なぜ半年あけて星を観測するの?
地球は約1年で太陽のまわりを一周します。半年たつと、軌道上でおおむね太陽の反対側へ移るため、同じ星を大きく離れた二つの地点から見ることができます。
左右の目の間隔を大きく広げるようなものです。地球と太陽の平均距離を1天文単位とすると、半年離れた地球の位置の間隔は約2天文単位になります。
星が非常に遠いので、この大きな間隔を使っても角度の変化はごくわずかです。国立科学博物館の「星までの距離はどのようにして測るのですか?」でも、半年おいた観測を比べる三角測量の考え方が紹介されています。
年周視差はなぜ「半分」の角度なのか
ここは混同しやすいところです。年周視差を表す角度pは、地球の公転に伴う見かけの動きの最大の端から端までの角度の半分です。
星の見かけの動きは、空での位置によって円に近くなったり、細長い楕円になったり、ほぼ直線になったりします。この軌跡を視差楕円と呼び、その長軸の半分に相当する角度が年周視差です。出典:日本天文学会「天文学辞典:年周視差」。
基本的な模式図では、恒星を頂点にして、太陽と地球を結ぶ1天文単位を見込む角度としてpを描きます。半年離れた二つの地球の位置を結ぶ約2天文単位とは、基準にしている長さが違うのです。
なお、適当に選んだ二つの観測日の位置の差が、必ず最大幅になるわけではありません。「半年の観測差はいつでも2p」と丸暗記せず、最大のずれを測る配置かどうかを確認することが大切です。
年周視差から距離を求める公式
パーセクを使うと「1÷視差」になる
年周視差が分かれば、三角測量の要領で星までの距離を計算できます。天文学でよく使う距離の単位がパーセク(pc)です。
1パーセクは、年周視差が1秒角となる距離で、約3.26光年に当たります。年周視差を秒角で表した値をp、距離をパーセクで表した値をdとすると、次の式で求められます。
光年に直すときは、求めたパーセクの値に約3.26を掛けます。
式と単位の定義は、日本天文学会「天文学辞典:パーセク」を参照しています。
計算例:年周視差が0.1秒角の星
p=0.1を代入すると、d=1÷0.1=10となり、距離は10パーセクです。光年に換算すると、10×3.26=約32.6光年になります。
| 年周視差p | 距離の計算 | パーセク | 約何光年か |
|---|---|---|---|
| 0.1秒角 | 1÷0.1 | 10 pc | 32.6光年 |
| 0.05秒角 | 1÷0.05 | 20 pc | 65.2光年 |
| 0.01秒角 | 1÷0.01 | 100 pc | 326光年 |
表は公式の関係を示す計算例です。視差が半分になると距離は2倍になります。「小さくずれる星ほど近い」と逆に覚えないようにしましょう。
計算で間違えやすい単位と角度
ここで使う「秒」は、時間の秒ではなく角度の秒です。1度を60分の1にしたものが1分角、さらに60分の1にしたものが1秒角です。つまり1秒角は1度の3,600分の1に当たります。
距離の式にそのまま入れるのは、秒角で表したpの値です。角度を度で与えられた場合は、先に秒角へ換算する必要があります。
また、「一年間の見かけの動きの最大幅が0.2秒角」と与えられた場合は、年周視差p=0.1秒角として計算します。最大幅0.2を直接入れると、距離が本来の半分になってしまいます。
肉眼では見える?どこまで距離を測れる?
年周視差は、身近な指の視差に比べて極めて小さく、肉眼で星が左右に揺れる様子を確かめるのは困難です。国立天文台は、銀河系の中心にある天体では約3,000万分の1度という小さな変化になると説明しています。
同台のVERAプロジェクトでは、電波天体の位置を一年を通して精密に測り、距離と運動を調べてきました。年周視差は学校の計算問題だけの考え方ではなく、銀河系の立体的な姿を調べる手段でもあります。出典:国立天文台「VERAとは」。
ただし、遠くなるほど視差が小さくなるため、測定精度には限界があります。年周視差だけで宇宙のすべての天体の距離を求められるわけではなく、遠方では明るさなどを使う別の測定方法も組み合わせます。
光行差との違いは「見る場所」と「運動」
年周視差と似た言葉に、年周光行差があります。どちらも1年周期で星の見える方向に関わりますが、年周視差は観測位置の違いによるものです。光行差は、光の速さが有限であることと観測者の運動によって起こります。
実際の位置測定では、光行差などの影響も考慮して年周視差を取り出します。詳しい違いは光行差の仕組みを解説した記事をご覧ください。出典:国立天文台暦計算室「視差」。
光の見え方から遠い宇宙を調べる別の現象として、重力レンズが光を曲げる仕組みも紹介しています。
地球の公転が宇宙を測るものさしになる
年周視差は、見る場所が変わると物の方向がずれて見えるという、身近な経験につながる現象です。地球の公転を使って観測位置を大きく変えることで、その仕組みを星の距離測定に利用できます。
「近いほどずれが大きい」「式に使う角度は最大幅の半分」「秒角なら距離は1÷p」。この三つを押さえると、遠い星を測る考え方がぐっと身近になります。


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