夜の雷雲のはるか上に、赤い柱や枝のような光が一瞬だけ現れることがあります。妖精のような名前を持つこの現象は「スプライト」。地上へ落ちる稲妻とは、発光する場所も見え方も異なります。
スプライト現象とは、強い落雷に伴って、雷雲よりずっと高い大気中で短時間発生する放電発光現象です。赤く見えることから、レッドスプライトとも呼ばれます。宇宙から来た物体ではなく、地球の大気で起こる現象です。
- 光る場所は雷雲の内部ではなく、主に高度50~90kmほどの上空です。
- 落雷に伴う電場の変化によって、薄い大気が発光します。
- 雲から直接伸びるジェットとは別の種類です。
スプライト現象とは?空の高い場所に現れる赤い光
スプライトは、雷雲の上で起こる「過渡的発光現象(TLE)」の一つです。過渡的とは、ごく短い間だけ現れるという意味です。日本気象学会の解説では、代表的な発光領域は高度50~90kmの中間圏、持続時間は数ミリ秒から数十ミリ秒とされています。1ミリ秒は1秒の1,000分の1です。
多数の柱が並ぶ形や、ニンジンのように上下へ広がる形などがあり、一つの決まった輪郭ではありません。日本気象学会は、1989年に米国ミネソタ大学の研究グループが、観測機器のテスト中に偶然撮影に成功した経緯も紹介しています。出典:日本気象学会『天気』「スプライト」(PDF)
数十kmという大きな範囲で光っても、発光があまりに短いため、夜空で気づくのは簡単ではありません。写真の印象から、長時間そこに浮いている光を想像しないことが大切です。
なぜ赤く光る?雷が上空の大気に働きかける
雷雲と地面の間で大きな電荷が移動すると、雲の上の電場も急に変わります。この影響が薄い高層大気に及び、電子などの粒子が加速されて大気中の分子と衝突し、光が生まれます。
NASAの解説では、主に強い正極性の落雷に伴って雷雲上方に電場ができ、窒素との相互作用によって赤い発光が起こると説明されています。空気は普段は電気を通しにくいものの、十分に強い電場がかかると放電が起こり得ます。出典:NASA「The Great Sprites Chase」
つまり、地上の稲妻が赤く変色して、そのまま高い空まで伸びているわけではありません。落雷と結びつきながらも、離れた上空の大気が光る現象です。強い落雷なら毎回必ず現れる、ということでもありません。
スプライトと雷、ブルージェットの違い
雲の上に出る光をすべてスプライトと呼ぶと、別の現象が混ざってしまいます。見分けるときは、色だけでなく「どこから光が始まっているか」に注目します。
| 現象 | 発生する場所・見え方 | スプライトとの違い |
|---|---|---|
| 通常の雷 | 雲の内部、雲同士、雲と地面の間などで放電 | 雷雲から遠く離れた高層大気の発光とは区別する |
| スプライト | 雷雲より高い場所で赤い柱や枝状の光 | 強い落雷に続いて高層大気で発生する |
| ブルージェット | 雲の頂上から上方へ伸びる青い光 | 雲頂から発光が伸びる |
| 巨大ジェット | 雲頂からさらに高い大気へ伸びる大規模な放電 | 雷雲と上空を直接つなぐような姿になる |
NASAは、2025年7月にISSから撮られ、当初スプライトと考えられた現象が、巨大ジェットだったと説明しています。迫力のある写真でも、分類には発光の位置や構造を確かめる必要があるのです。出典:NASA・巨大ジェットとスプライトの違い
なぜ普段は見えない?雲の上と一瞬の光が難所
地上から雷雲を見上げると、発光する場所が手前の雲に隠れる場合があります。しかも、スプライトが続くのは一瞬です。雷雲がある方向を見ていても、低い空や雲の中ばかり見ていると気づきにくくなります。
NASAが紹介する2012年のISSからの記録では、雷雲の上に赤い発光が写っています。宇宙から見下ろす視点は、地上では雲に遮られがちな現象を捉える助けになります。出典:NASA Earth Observatory・ISSから撮影されたスプライト
一方、写真に赤い光が写っただけで断定はできません。雲との位置関係、発光の時間変化、雷が起きた時刻など、前後の情報が判断材料になります。撮影機器による色の違いもあるため、画像の色だけが決め手ではありません。
日本でも見られる?研究は地上と宇宙から
スプライトは海外だけの現象ではありません。日本気象学会の解説では、冬の北陸で多くなる正極性落雷に伴う観測例が紹介されています。夏の雷のイメージだけで考えると、見落としやすい点です。
日本の研究としては、ISS「きぼう」に搭載されたJEM-GLIMSがあります。JAXAによると、カメラや光を測る装置、電波を受信する装置を使って、雷とスプライトの時間・空間的な関係などを調べるミッションでした。現在も運用していると誤解しないよう、過去の観測計画・成果として区別して読む必要があります。出典:JAXA「ポート共有実験装置(MCE)*運用終了」
雷雲の上に一瞬現れる光を調べることは、雷の影響が雲の中だけで終わらず、高層大気にまで及ぶことを理解する手がかりになります。
まとめ|赤い妖精の正体は、雷と高層大気のつながり
スプライト現象は、強い落雷に伴う電場の変化によって、雷雲よりはるか上の大気が短時間光る現象です。青いジェットや地上へ落ちる稲妻とは、発生する場所や形が異なります。
雷そのものの不思議は、カタトゥンボの雷が続く理由ともつながります。また、雷の熱が地面に残す雷管石のでき方も別の面白い記録です。空の上と足元の両方に、雷がつくる意外な現象があります。


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