エントロピー増大の法則をわかりやすく解説!冷蔵庫や生物は例外?

熱いコーヒーは放っておくと冷めます。でも、冷めたコーヒーが周囲から熱を集め、ひとりでに熱々に戻ることはありません。このような自然な変化の向きを考える鍵が、エントロピー増大の法則です。

「世界はどんどん散らかる」と説明されることもありますが、それだけでは冷蔵庫で氷を作れる理由や、生物が体を維持できる理由が分かりません。この記事ではエントロピー増大の法則をわかりやすく理解するため、身近な例と小さな計算をつなげて解説します。

最初に押さえる3点

  • エントロピーは、物質の状態を表す物理量。
  • 外と物質もエネルギーもやり取りしない「孤立系」では、全体のエントロピーは減らない。
  • 一部分のエントロピーが減ることはある。周囲を含めた合計で判断する。

エントロピー増大の法則とは?一言でいうと

エントロピー増大の法則は、孤立した全体では、自然な不可逆変化によってエントロピーが増えるという法則です。理想的な可逆変化では一定です。「増大」という名前でも、あらゆる場所で常に増え続けなければならない、という意味ではありません。

不可逆とは、対象と周囲の両方を、何の変化も残さず元に戻すことができないことです。冷めたコーヒーを温め直すことはできますが、そのために電気を使い、周囲にも変化を残します。「人間が操作しても元の温度にできない」という意味ではありません。

この法則は熱力学第二法則の表現の一つです。NASAの熱力学第二法則の解説でも、エネルギーが保存されることだけでは、熱が移動する向きまでは決まらないと説明されています。

「エネルギーの量」と「変化の向き」は別の話

熱い物体から冷たい物体へ熱が移っても、エネルギーが消えるわけではありません。逆向きに同じ量が移る様子を想像しても、量の収支だけなら合わせられます。それでも自然には起きない方向があるため、エネルギー保存とは別の法則が必要になります。

見る範囲を先に決めよう

コーヒーだけを見るのか、カップや周りの空気まで含めるのかで、エントロピーの増減は変わります。ふたをした容器でも、壁を通して熱が出入りするなら孤立系ではありません。

エントロピーは「散らかり具合」より、状態の作り方の多さで考える

分子の世界から見ると、温度や体積などが同じでも、個々の分子の位置やエネルギーの配分には多くの可能性があります。同じ大まかな状態に対応する、細かな状態の数が多いほど、統計的なエントロピーは大きくなります。

この関係を表す代表的な式がS=kB ln Wです。Sはエントロピー、Wは対応する微視的状態の数、kBはボルツマン定数です。式を覚える前に、「同じように見える結果でも、それを実現する組み合わせの数が違う」と考えてみましょう。OpenStaxの統計的な説明で、この考え方を確認できます。

6枚のコインで、起こりやすさを比べる

区別できる6枚の公平なコインを、それぞれ独立に投げるとします。表裏の並び方は全部で2の6乗、つまり64通りです。そのうち、表が何枚になるかをまとめると次のようになります。

大まかな結果 並び方の数 確率
すべて表 1通り 1/64(約1.6%)
表3枚・裏3枚 20通り 20/64(約31.3%)
表2〜4枚のいずれか 50通り 50/64(約78.1%)

「表3枚・裏3枚」のほうが「すべて表」より起こりやすいのは、それを実現する並び方が多いからです。ただし、一つに指定した並び方どうしなら、どちらも確率は1/64です。「表裏が混じった一つの並び」だけを特別扱いしているわけではありません。

コインは組み合わせのたとえであり、熱力学の完全な模型ではありません。分子の運動にはエネルギー保存などの条件もあります。ただ、非常に多くの粒子では、実現方法の多い状態が圧倒的に優勢になる、という感覚をつかめます。

コーヒーが冷めると、コーヒー自身のエントロピーは減る

「冷めるとエントロピーが増える」とだけ覚えると、ここでつまずきます。相変化などを考えない単純な冷却では、熱を失うコーヒー自身のエントロピーは減ります。一方で、その熱を受け取る周囲のエントロピーが、それ以上に増えます。

計算しやすい例として、温度がほぼ変わらないほど大きな二つの熱源を考えます。400Kの高温側から300Kの低温側へ、120Jの熱が移るとしましょう。Kはケルビンという絶対温度の単位です。

熱源どうしのエントロピー変化の計算例

  • 高温側:−120÷400=−0.3J/K
  • 低温側:+120÷300=+0.4J/K
  • 合計:−0.3+0.4=+0.1J/K

高温側は減っても、合計は増えます。ここでは熱源の状態変化をΔS=Q/Tで計算しています。温度が変わるコーヒーを丸ごと扱う場合には、温度変化を考慮した計算が必要です。また、任意の不可逆過程の熱量を、いつでも一つの温度で割ればよいわけではありません。定義と適用条件はOpenStaxのエントロピーの章に説明があります。

冷蔵庫は、エントロピー増大の法則に逆らっていない

冷蔵庫は電気を使って内部から熱を取り出し、室内へ放出します。内部の物を冷やしてエントロピーを減らしても、外へ出した熱などによって周囲のエントロピーが増えるため、法則と矛盾しません。

運転を一周期で考えると、外に放出する熱の量は「中から取り出した熱+外から加えた仕事」です。例えば内部から100J取り出すために40Jの仕事を加えたなら、周囲へ140Jを放出します。これはエネルギー収支の例で、機種の実測値ではありません。冷蔵庫とヒートポンプの仕組みも、この収支から理解できます。

このため、冷蔵庫の扉を開けっぱなしにして、閉じた部屋全体を冷やすことはできません。冷たい場所はできても、部屋全体には電気で供給した分のエネルギーが加わります。「冷たい空気が出るか」より、熱の出口がどこかを見ることが大切です。

生物の成長や、部屋の片付けは例外?

生物は食べ物や光などからエネルギーを受け取り、熱や物質を外へ出しています。周囲とやり取りをするので、生物だけを孤立系として扱うことはできません。部分的に秩序が維持・形成されても、周囲を含めたエントロピー増大と両立できます。OpenStaxの第二法則の説明でも、局所的な減少と全体の増加が区別されています。

部屋を片付けるときも、人は体を動かし、周囲へ熱を出します。ただし、本がきれいに並んでいるかどうかは人間の評価です。見た目だけで熱力学的なエントロピーを測れるわけではなく、「片付いたから何J/K減った」とは言えません。

地球も、外から切り離された箱ではない

地球は太陽から光を受け取り、宇宙へ赤外線を放射しています。NASAの地球のエネルギー収支の解説にも示されるように、絶えずエネルギーが出入りしています。

そのため、地球上の一部分で整った構造ができることを、そのまま第二法則への反例にすることはできません。宇宙との熱のやり取りに興味がある方は、宇宙の温度は約−270℃なのに、日なたが熱い理由も参考になります。

よくある疑問:増えるのは「熱」や「温度」ではない

エントロピーが増えたら、温度も必ず上がる?

いいえ。エントロピーと温度は別の物理量です。例えば理想気体が断熱された容器内で真空側へ自由に広がる場合、内部エネルギーと温度は変わらなくても、エントロピーは増えます。増大を「熱くなること」と置き換えないようにしましょう。

エントロピーはエネルギーがなくなる量?

違います。エネルギーの単位はJ、エントロピーの単位はJ/Kです。エネルギーは保存されても、温度差などを利用して仕事を取り出せる余地は変わります。「量は残っているが、利用の条件が変わる」と考えると区別しやすくなります。

迷ったら「どこまで含めた全体か」を確認しよう

エントロピー増大の法則を理解するには、何が散らかったかより、対象と周囲の境界を見ることが役立ちます。コーヒーは熱を渡し、冷蔵庫は電気を使って熱を運び、生物は外と物質やエネルギーを交換します。

「一部分では減らせる。でも孤立した全体では減らない」を出発点にすると、身近な変化と世界の不思議を、同じルールで考えられるようになります。

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