科学館の吹き抜けで、大きなおもりが静かに往復している。しばらく見ていると、振れる向きが少しずつ変わり、周囲のピンを倒していくことがあります。これがフーコーの振り子です。
ただ揺れているだけに見える装置で、なぜ地球の自転が分かるのでしょうか。「振り子は地球につながっているのに?」「地球は1日で回るのに、なぜ振れる方向は1日で1周しないの?」という疑問を、順番に解いていきます。
フーコーの振り子は、自転する地球の上から見たとき、往復する向きがゆっくり変わる装置です。おもりが円周上をぐるぐる回るのではなく、往復運動の「向き」が変わります。その変化の速さは、観察する場所の緯度によって異なります。
フーコーの振り子とは?地球の自転を見せる実験
フーコーの振り子は、長いワイヤーなどにつるしたおもりを振らせ、地球の自転による振動方向の変化を観察する装置です。1851年、フランスの物理学者レオン・フーコーが行った実験にちなんでいます。
名古屋市の科学館の解説によると、パリのパンテオンでの公開実験では、長さ67メートルのピアノ線と、重さ28キログラムのおもりが使われました。空の星の動きだけに頼らず、地上の装置でも地球の回転を確かめられる点が、この実験の面白さです。【出典:名古屋市科学館・フーコーの振り子】
なぜ振れる向きが変わる?まず北極で考える
いちばんイメージしやすいのは、北極点の真上からつるした、理想的な振り子です。余計な横向きの力を受けなければ、振り子は空間に対して同じ向きに往復し続けようとします。一方、その下の地面は地球とともに回ります。
外から眺めると「地面が回っている」と理解できますが、地面の上にいる私たちは、床や建物を基準にします。すると、床に対して振り子の往復する線が回って見えるのです。スミソニアン博物館も、この北極での思考実験を使って説明しています。【出典:スミソニアン博物館】
ここで見るのは、おもりの中心が円を描く動きではありません。おもりは行って戻る運動を続けます。その往復の両端と支点を含む面を振動面といい、その向きが床に対してゆっくり変わることが観察のポイントです。
日本での仕組みは「コリオリの力」で説明する
北極以外では、振り子の支点も地球の自転とともに地軸の周りを移動します。そのため、北極の説明をそのまま使って「どこでも地面だけが1日で1回転する」と考えることはできません。
地球上の立場から運動を説明するときに使うのが、コリオリの力です。回転している場所から物体の動きを見る際に現れる見かけの力で、振り子の振動面が変わって見える現象も、この考え方で記述できます。弘前大学の解説も、フーコーの振り子をコリオリの力と結びつけて説明しています。【出典:弘前大学・原理】
ワイヤーが建物につながっていても、振れる方向が床に固定されているわけではありません。あらゆる方向へ振れやすいように支えることで、床との向きの変化を観察できます。反対に、一定方向にしか動けない仕組みなら、同じ実験にはなりません。
24時間で1周しないのはなぜ?緯度で速さが変わる
振動面の回転に関わるのは、地球の回転のうち、観察場所の地面に垂直な軸の周りの成分です。極ではその効果が最大になり、赤道へ近づくほど小さくなります。
葛飾区郷土と天文の博物館は、振動面が1周する時間を、北半球では「23.934時間÷sin(緯度)」と説明しています。23.934時間は、地球が星空を基準に1回転する約1日の長さです。同館のある葛飾では、振動面の1周に約41時間かかります。【出典:葛飾区郷土と天文の博物館】
| 場所・緯度 | 振動面が360度変わる時間の目安 | 特徴 |
|---|---|---|
| 北極点・北緯90度 | 約24時間 | 緯度による効果が最大 |
| 北緯45度 | 約34時間 | 1日より長くなる |
| 葛飾・北緯約35.8度 | 約41時間 | 日本での展示の一例 |
| 赤道・緯度0度 | 自転による振動面の回転は生じない | 1周の時間を有限の値で表せない |
数値は理想的な振り子の式に基づく概数です。北緯45度の約34時間も、同じ式から計算した目安です。また、北半球では上から見て時計回り、南半球では反時計回りになります。
なお、表の「1周」は振動面の向きの変化を指します。おもりが1回行って戻る時間とは別なので、ゆっくりした向きの変化と、目の前の往復運動を混同しないようにしましょう。
なぜ大きくて重い振り子を使うの?
地球の自転による変化はゆっくりです。確かめるには、気流や支点の摩擦などによる余計な動きをできるだけ減らし、長く観察できることが大切になります。弘前大学は、重いおもりは気流の影響を受けにくく、長い振り子はゆっくり振れて観察しやすいと説明しています。
小さな振り子でも原理は同じですが、手近なひもとおもりを振らせるだけで、すぐ自転が分かるとは限りません。ひものねじれや最初の振らせ方などの影響を、自転による変化と取り違えない工夫が必要です。
ずっと動いているのは、永久機関だから?
フーコーの振り子も、空気抵抗などでエネルギーを失います。何もしなければ、振れ幅は小さくなっていきます。展示によっては、電磁石などで失ったエネルギーを補い、観察を続けられるようにしています。
スミソニアン博物館は、かつて展示していた装置について、往復する向きに合わせて電磁石で小さく力を与え、運動を維持したと説明しています。往復運動を保つことと、振れる向きを回すことは別です。補助装置があるから地球の自転を示せない、ということにはなりません。
科学館では「少し前と同じ向きか」を見てみよう
見学では、おもりがどの目盛りの上を通るかを覚え、時間を置いて比べてみてください。ピンがある展示なら、倒れた位置が少しずつ移ることも手がかりになります。国立科学博物館の展示データベースにも、日本館1階のフーコーの振り子が掲載されています。【出典:国立科学博物館・常設展示データベース】
地球の回転をさらに知りたい方は、地球の自転を解説した記事もどうぞ。回転する視点で天体の動きを捉える考え方は、ラグランジュ点の仕組みにもつながります。
静かに揺れる振り子の向こうで、足元の地球も動いている。フーコーの振り子は、その実感しにくい回転を、時間をかけて見せてくれる装置なのです。

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