重力レンズとは?光が曲がる仕組みとアインシュタインリングが見える理由

手前の銀河の周囲に背景銀河の像が青いリングとして見える重力レンズのイラスト

宇宙の写真に写る、細長い弧や光のリング。一つの銀河の周りに、同じような天体がいくつも並んで見えることもあります。これらの不思議な姿を生む現象の一つが、重力レンズです。

宇宙に巨大なガラスのレンズが浮いているのでしょうか。実際には、手前の天体の重力が、遠くの天体から届く光の進路を変えています。重力レンズの仕組みと、リングや複数の像ができる理由を解説します。

先に答えると
重力レンズは、重力で光の進路が曲がり、背後の天体がゆがんだり、明るく大きく見えたりする現象です。観察者・手前の天体・奥の天体の並び方によって、弧、リング、複数の像など、見え方が変わります。

重力レンズとは?宇宙の「天然の望遠鏡」

重力レンズでは、遠くにある光源、その手前の重力を及ぼす天体、そして観察者という位置関係が重要です。手前の天体は、銀河や銀河団、恒星などの場合があります。

国立天文台は、手前の質量の大きな天体によって空間がゆがみ、その中を通る光が曲がることで、奥の天体が拡大されたり、円弧やリングに見えたりすると説明しています。【出典:国立天文台・重力がつくる光のリング】

「天然の望遠鏡」という呼び方は、遠くの暗い天体を観測しやすくする働きに由来します。ただし、普通の望遠鏡のように、観察者が好きな方向に向けたり、倍率を自由に調節したりできるものではありません。

光に重さがないのに、なぜ曲がるの?

光を、重い球と同じように横から引っ張るだけのものとして考えると、疑問が残ります。ここで基礎になるのが、アインシュタインの一般相対性理論です。

一般相対性理論では、重力を時空の曲がりとして捉えます。光も、その曲がった時空の中を進むため、離れた私たちからは光路が曲がって見えます。NASAは、この光路の変化が背景の天体像をゆがめ、拡大することを説明しています。【出典:NASA・Hubble Gravitational Lenses】

つまり、光に普通の物体と同じ重さを付け加える必要はありません。「光はいつでも、どんな場所でも、外から見てまっすぐ進む」と考えるのではなく、どのような時空の中を通ってきたかが大切になります。

同じ天体が何個にも見える理由

奥の天体から出た光は、手前の天体の周囲を通る複数の経路で、私たちの所に届くことがあります。私たちは届いた光の方向をもとに天体の位置を判断するため、同じ光源が違う方向にあるように見えるのです。

弘前大学の研究者による解説では、背後のクエーサーが、手前の銀河の重力によって二つの像に見える観測例が紹介されています。像が二つあるからといって、奥に同じ天体が二つ実在するとは限りません。【出典:国立大学56工学系学部HP・重力レンズの世界】

ただし、写真に並んだ似た銀河が、すべて同じ銀河の像というわけでもありません。実際の研究では、位置や光の性質などを調べ、どの像が対応するのかを検討します。見た目の印象だけで決めるものではないのです。

アインシュタインリングは、本物の輪なの?

背景の光源と手前の天体が、観察者から見てよくそろった場合などに、背景の像がリング状に見えることがあります。これがアインシュタインリングです。配置がずれたり、質量の分布が複雑だったりすると、完全な輪ではなく弧などの姿になることもあります。

リングとして見えているのは、奥の天体から来た光です。手前の銀河の周りに、輪の形をした天体がそのまま存在する、という意味ではありません。

国立天文台が紹介するSDP.81では、遠方の銀河が別の銀河の重力レンズを受け、アルマ望遠鏡にほぼ完全なリングとして捉えられています。こうした写真を見るときは、中央付近の手前の天体と、周囲にゆがんで見える背景の像を分けて考えると、奥行きが想像しやすくなります。

強い重力レンズ・弱い重力レンズ・マイクロレンズの違い

呼び方 主な見え方・調べ方 ポイント
強い重力レンズ 複数の像、弧やリングなど 大きなゆがみが特徴として現れる
弱い重力レンズ 多数の銀河のわずかな形の変化を統計的に調べる 一つの写真だけでは気づきにくい
重力マイクロレンズ 背景の星の明るさなどの変化を調べる 像の分離が非常に小さい場合も扱う

スイス連邦工科大学ローザンヌ校の解説は、重力レンズを強いもの、弱いもの、マイクロレンズという領域に分けています。すべてが派手な輪になるわけではなく、ごく小さな変化を調べる観測も重要です。【出典:EPFL・Gravitational lensing】

たとえば、NASAの重力マイクロレンズの紹介では、手前の星が背景の星の近くを見かけ上通過すると、背景の光が一時的に明るくなる様子が示されています。観察するのが輪の形なのか、時間とともに変わる明るさなのかでも、実験や写真の印象は違ってきます。【出典:NASA・重力マイクロレンズのシミュレーション】

何が分かる?見えない質量を調べる手がかり

光がどのように曲げられたかは、手前にある質量の分布に関わります。そこで、背景の像の位置や形をモデルと比べることで、レンズとなった天体の質量を調べられます。

この方法は、光を出す物質だけでなく、見えないダークマターの分布を考える際にも使われます。EPFLは、重力レンズのモデルによる詳しい解析が、見える物質と暗黒物質の分布を調べる有力な手段になると説明しています。

「見えないのに、なぜ存在が分かるの?」という疑問は、ダークマターの正体と存在を推定する理由の記事でも解説しています。重力レンズが示すのは、粒子の正体を直接撮影した写真というよりも、光に残された重力の影響です。

ゆがんだ像から、宇宙の奥行きを読む

重力レンズの写真では、明るい天体の数だけでなく、弧の向きや長さ、似た像の配置にも注目してみてください。奇妙な形の中に、背景の天体と手前の質量の両方の情報が含まれています。

また、手前に必要なのは質量であり、必ずブラックホールでなければならないわけではありません。重力による別の不思議に興味がある方には、天体が近づきすぎると壊れる条件を扱うロッシュ限界の解説もおすすめです。

重力レンズは、宇宙の景色をゆがめる現象であると同時に、普通なら見えにくい世界へ目を向ける手段でもあります。光のリングは、見た目の美しさだけでなく、宇宙を読み解く手がかりなのです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 ※ が付いている欄は必須項目です