宇宙はどんな匂い?金属やラズベリーの話と宇宙飛行士が感じた正体

地球が見える船内の窓のそばに置かれた宇宙服のヘルメットと手袋

宇宙は、焼けた金属のような匂いがする。あるいはラズベリーの香りがする――そんな話を見かけたことはありませんか。

宇宙の匂いを理解するには、まず「宇宙飛行士が感じた匂い」と「遠い宇宙で検出された分子」を分ける必要があります。真空の宇宙を直接嗅いだという意味ではないのです。

先に結論

  • 船外活動後の宇宙服や道具に、独特の匂いを感じたという報告がある
  • 匂いの原因は、完全には特定されていない
  • 星間空間で香りに関わる分子を検出しても、宇宙全体がその香りだとはいえない

宇宙はどんな匂い?宇宙飛行士の報告

NASAの紹介には、船外活動から戻った宇宙飛行士が、金属、溶接時の煙、火薬などにたとえられる匂いを感じたという話がまとめられています。Don Pettit氏も、自身の経験を甘さのある金属的な感覚として説明しています。

ただし、こうした表現は、なじみのある匂いに置き換えた体験のたとえです。「金属のような匂い」と聞いたからといって、金属がそのまま気体になって鼻へ入った、と結論づけることはできません。

人によって表現が違うため、宇宙の匂いに一つの決まった名前があるわけでもありません。出典:NASA「Interesting Fact of the Month 2021」の宇宙の匂いに関する項目

真空なのに、どうして匂いを感じられるの?

嗅いでいるのは、船外から戻った装備など

宇宙飛行士は、船外でヘルメットを外して匂いを調べているわけではありません。よく紹介される体験は、船内へ戻り、ヘルメットを外したあとに感じられた匂いです。

宇宙服や手袋、道具などに、いつもと違う匂いが感じられたと報告されています。「宇宙空間そのものを直接嗅ぐこと」と「宇宙にさらされた物を船内で嗅ぐこと」を分けると、真空なのに匂うという疑問を整理できます。出典:NASAの解説

「宇宙」は、どこも完全な無ではない

宇宙空間は地上の空気に比べて非常に希薄ですが、場所によって原子や分子、ちりなどが存在します。国際宇宙ステーション(ISS)が飛ぶ低い地球周回軌道も、地球から遠く離れた星間空間と同じ環境ではありません。

その違いは、「宇宙の匂い」を一言で説明しようとするときに、見落としやすいポイントです。

宇宙の匂いの正体は、解明されている?

NASAの解説でも、原因についての短い答えは「まだ分からない」とされています。材料の表面で起こる反応や、宇宙に存在する分子など、いくつかの可能性が議論されています。

低軌道には、材料と反応する原子状酸素がある

地上で呼吸している酸素は、通常は酸素原子二つが結びついたO2です。一方、低い地球周回軌道には、一つの酸素原子からなる原子状酸素があり、宇宙機の表面材料と反応することが知られています。

NASAは、原子状酸素が高分子材料などを侵食するため、宇宙にさらした試料を調べ、材料の耐久性を評価しています。宇宙の外に出した装備が、何の影響も受けずに戻るとは限らないのです。出典:NASA「Predicting the Lifespan of Materials in Space」

ただし、材料との反応が実際にあることと、ある人が感じた匂いの成分が特定されたことは別です。「原子状酸素があるから匂いの正体はこれで確定」とは扱わない方が正確です。

ラズベリーの匂いの話は、何を意味している?

宇宙の香りの話題で登場するのが、ギ酸エチルという有機分子です。2009年の研究では、天の川銀河の中心方向にある星形成領域いて座B2(Sgr B2)で、この分子を検出したと報告されています。

研究者は、電波望遠鏡で観測したスペクトルを解析しました。遠くのガスを地球へ持ち帰って嗅いだわけではありません。特定の分子が出す電波の特徴を、ほかの分子の信号と照らし合わせて調べています。出典:Bellocheほか(2009)「Increased complexity in interstellar chemistry」

ここから「宇宙はどこでもラズベリーの匂いがする」と結論づけることはできません。一つの領域に特定の分子があるという観測と、人が感じる香りは同じ意味ではないからです。

香りのたとえと、分子の検出を分けよう

「香りに関わる分子が宇宙にある」という話は、宇宙の化学の面白さを伝えます。ただし、分子の種類だけで、実際の場所の匂いを再現したことにはなりません。

「宇宙の匂い」と呼ばれる3つの話を比較

話の種類 調べているもの そこから言えないこと
船外活動後の匂い 戻った装備などに感じる匂いの体験 真空を直接嗅いだということ
星間分子の検出 電波などの特徴から分かる分子の存在 宇宙全体が同じ香りだということ
船内の日常の匂い 空気のある生活空間の匂い 船外の宇宙環境と同じ匂いだということ

同じ言葉でまとめられていても、体験している場所や調べ方が違います。見出しだけでなく、「誰が、どこで、何を測ったのか」を見ると、話が混ざりにくくなります。

匂いは、宇宙での材料研究にもつながる

独特の香りという話は興味を引きますが、その背景にある材料の変化は、宇宙機を長く使うための研究にも関係します。

NASAのISSでの材料曝露実験では、原子状酸素や放射線などにさらした試料の変化を調べています。こうした実験は、宇宙の匂いをそのまま測る実験ではありませんが、地上とは違う環境で材料がどう変わるかを知る手がかりになります。出典:NASA「Exposed! International Space Station Tests Organisms, Materials in Space」

よくある疑問

真空なら、分子も一つもない?

日常の説明で「宇宙は真空」というとき、必ずしも原子や分子が完全にゼロという意味ではありません。宇宙の場所によって、含まれる物質や密度は異なります。

宇宙の匂いは、人によって違う?

報告に使われるたとえはさまざまです。ただし、その違いだけで、匂いの成分や発生原因まで決まるわけではありません。

宇宙の音と同じような話?

「人が直接感じるもの」と「観測や変換によって知るもの」を分ける点は共通します。音については、宇宙で音は聞こえない理由とNASAの『宇宙の音』もご覧ください。

まとめ:宇宙の匂いは、体験と化学を分けると分かりやすい

宇宙飛行士が感じた独特の匂いは、主に船外活動後に戻った装備などについての報告です。その原因は完全には特定されていません。

一方、遠い星形成領域での有機分子の検出は、望遠鏡で調べる宇宙化学の話です。二つを分けて読むことで、少し不思議な見出しの奥にある研究が見えてきます。

地上の匂いにも興味がある方は、雨の匂いの正体・ペトリコールとゲオスミンの違いもどうぞ。

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