アフリカ南西部のナミブ砂漠周辺には、草原に丸い空白が点々と並ぶ場所があります。草のない中心を草の輪が囲む、不思議な景色。これがフェアリーサークル(妖精の輪)です。
誰かが地面に円を描いたように見えますが、自然の中で生まれた模様です。では、なぜ草が一様に生えず、円形の空白が残るのでしょうか。研究で分かっていることと、まだ議論が続いている点を分けて見ていきます。
ナミブのフェアリーサークルには、草が限られた水を巡ってつくる「自己組織化」と、シロアリの活動を重視する説明があります。研究結果の解釈には論争があり、砂漠の円形模様をすべて一つの原因で説明できると断定する段階ではありません。
フェアリーサークルとは?草原に開いた円形の空白
今回扱うフェアリーサークルは、乾燥した草原に見られる、中心部に草がほとんどない円形の模様です。深い穴や隕石のクレーターではなく、植物が生える場所と生えない場所の違いが景色の模様になっています。
沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究紹介も、ナミブ砂漠のフェアリーサークルを、むき出しの大地の周りを短い草がリング状に囲むものとして説明しています。
「妖精の輪」という呼び名は、キノコが輪状に生える現象にも使われます。しかし、同じような呼び名だからといって、砂漠の円もキノコの菌糸がつくったと考えてはいけません。見た目の名前と、できる仕組みは別に確かめる必要があります。
有力説①:草が水を巡って並ぶ「自己組織化」
一つの説明は、植物と水の相互作用によって、草の生える場所が模様として分かれるというものです。これを「自己組織化」と呼びます。中心に指示役がいなくても、個々の草が周囲の環境と関わることで、全体として一定の配置が生まれる、という考え方です。
2024年の『Landscape Ecology』の研究では、ナミブの10か所の調査区をドローンで記録し、一部では2020~2023年の雨季の変化が追跡されました。研究者たちは、雨水のしみ込み方と草同士の水の競争が、円の配置や変化を左右すると結論づけています。
この説では、周囲の草が水を利用することで、円の内側に芽生えた若い草が十分に育ちにくい状態が維持されると考えます。草が相談して円をつくるのではなく、水を得られる場所の差が、結果として植生の空白になるのです。
有力説②:シロアリが草の根に影響する
もう一つの有力な説明は、地下にすむシロアリの活動に注目します。草の根への食害などが、中心に草がない状態を生むという考え方です。
Jürgens氏とGröngröft氏の2023年の論文は、長期の土壌水分測定や観察を基に、植物の水分競争説へ反論しています。著者らは、円の地下には水分が残っているにもかかわらず草が死ぬことや、根への食害を重視し、シロアリが原因だと主張しています。
一方、植物の自己組織化を支持する研究者は、根が傷ついていない草も枯れることなどを根拠に、異なる解釈を示しています。単に「シロアリが見つかったか」だけでなく、いつ、どの根が傷み、水分がどの深さにあったかが議論のポイントなのです。
2つの説は、どこが違う?
| 比較する点 | 植物の自己組織化を重視する説 | シロアリを重視する説 |
|---|---|---|
| 主な働き | 限られた水を巡る草の競争と、土壌との相互作用 | シロアリの食害などによる植生への影響 |
| 注目する証拠 | 雨の後の草の変化、根の状態、土壌水分、円の配置 | 地下の水分、草が死ぬ順序、根の損傷やシロアリの活動 |
| 難しい点 | 地下の水の動きと草の枯死を、どう因果関係で結ぶか | 昆虫の存在が、円を生んだ原因なのかをどう確かめるか |
この比較は、両説が同じだけ支持されていると数え上げるものではありません。同じ景色を説明するために、何を測り、どう解釈しているかを整理したものです。
「原因が判明」と書かれた記事に出会ったら、研究の発表年と調査対象を確かめてみてください。一つの研究がある説を支持したことと、関連するすべての議論が終わったことは同じではありません。
円はずっと同じ?雨の後には草で埋まることも
フェアリーサークルは、地面に固定された印のように見えます。しかし、前述の2024年の調査では、干ばつ後に十分な雨が降ったあと、多くの成熟した円が草に覆われる変化が記録されました。
これは「永久に何も生えない特別な地面」と考えるより、雨と植物の応答によって変化する景観として見るべきことを示します。同じ場所でも、撮影年や雨の状態が違えば、円の見えやすさが変わる可能性があります。
写真の印象だけで「完全な円が同じ間隔で永遠に並ぶ」と捉えず、時間とともに変わる生態系だと考えると、この模様がぐっと身近になります。
2025年の研究は、地下の小さな生物にも注目
2025年の『PLOS One』の研究は、ナミビアの南北約900kmにわたる範囲で、円の中心・草の輪・周囲の草地にいる土壌線虫を調べました。
草のある場所では線虫の数や多様性が高い一方、むき出しの中心部では有機物が少なく、線虫も乏しい結果でした。著者らは、こうした地下の生物の違いが、円の環境に応答するだけでなく、模様の維持にも関わる可能性を示しています。
ただし「線虫が見つかったから、線虫が円を掘った」という結論ではありません。この研究も、形成の究極の原因を巡る議論が続いているとしています。地表の草だけでなく、土の中の資源や生物同士の関係まで調べる必要があるのです。
なぜ規則的に見える?模様そのものも研究の対象
一つの円だけでなく、円同士の並び方も研究の手がかりになります。OISTが2015年に紹介した研究では、衛星画像から円の周囲に境界を割り当て、隣り合う区画の数を数えたところ、皮膚細胞の配置と似た統計的なパターンが得られました。
これは砂漠が細胞でできているという意味でも、同じ原因で形成されると証明したという意味でもありません。大きさのまったく違う対象に、似た配置の規則があるという発見です。形の共通点は、原因を考える手がかりになるという面白さがあります。
妖精の輪を、変化する自然の模様として見る
ナミブのフェアリーサークルは、草のない中心と周囲の草がつくる円形の模様です。植物の水分競争やシロアリを重視する説明があり、地下の生物も含めた研究が進んでいます。
「まったく何も分からない謎」とするのも、「原因は一つで完全に解決」とするのも早計です。何が観察され、どの部分が解釈なのかを分けると、砂漠の模様を巡る科学の面白さが見えてきます。
自然がつくる形に興味が湧いたら、岩の穴模様を紹介したタフォニの記事や、雪や氷の失われ方が刃の形を生むペニテンテの記事もどうぞ。似ている形や規則的な景色にも、それぞれ異なる仕組みが隠れています。


コメントを残す