ペニテンテはなぜ尖る?アンデスの「氷の刃」ができる仕組みと冥王星との共通点

乾いたアンデス高原に並ぶ、刃のような雪と氷のペニテンテ

乾いた山々の間に、白い刃のような雪や氷が無数に並ぶ景色があります。アンデスの高地などで見られるペニテンテです。自然がつくった氷の森のようですが、氷が上へ上へと積み上がってできた姿ではありません。

鍵になるのは、雪や氷がどこから、どのように失われるか。ペニテンテができる仕組み、強風との関係、そして冥王星で研究される似た地形を見ていきましょう。

先に答え
ペニテンテは、日射を受けた雪や氷の減り方に差が生まれ、周囲のくぼみが深くなることで、刃のような部分が残った地形です。固体が直接気体になる「昇華」が重要で、発達したくぼみでは融解も関わります。風だけで削った彫刻ではありません。

ペニテンテとは?高地に並ぶ雪と氷の尖塔

ペニテンテ(penitentes)は、硬くなった雪や氷が細長い刃、あるいは尖塔のように並ぶ地形です。ヨーロッパ南天天文台(ESO)の写真解説では、チリのチャナントール高原にある例が紹介されています。大きさは数cmほどから数mに達するものまであります。

見た目は鋭くても、透明な水晶が生えたものではありません。もともとあった雪や氷の表面が変化した姿です。尖った先だけでなく、その間にある深い溝やくぼみに注目すると、でき方が見えてきます。

名称はスペイン語で「悔悟者」を意味します。ESOは、宗教行列で身に着ける尖った帽子に形が似ていることを、名前の由来として紹介しています。

できる仕組みは「氷が増える」より「周りが減る」

昇華と融解はどう違う?

氷がなくなると聞くと、水になって流れ出す様子を想像しがちです。しかし、液体の水を経ずに、水蒸気へ直接変わることもあります。これが昇華です。

変化 何から何へ? ペニテンテとの関係
昇華 雪・氷などの固体 → 気体 形成の初期段階で重要。液体の水を経ずに雪や氷が減る。
融解 固体 → 液体の水 発達したくぼみなどで起こり、形の変化を進める場合がある。
凍結 液体の水 → 固体 水が凍る変化。これだけでペニテンテの形を説明することはできない。

2006年の実験研究では、cm規模のペニテンテが実験室でつくられました。研究者たちは、形成の始まりには融解よりも昇華が起きる低温条件が重要で、形ができた後は融解によって高さの差がさらに大きくなる場合があると報告しています。

小さなくぼみが、さらに深くなる

ESOの形成過程の説明は、乾燥した環境で雪面が日光を受け、昇華が進むところから始まります。表面のくぼみには周囲から反射した光が入り、くぼみがさらに深くなる働きが生まれます。

くぼみの中では温度や湿度も変化し、融解が起こる場合があります。場所による減り方の差が拡大すると、残った部分が刃や塔のように目立つようになるのです。

「氷の柱が成長する」という表現を見ても、必ずしも氷が付け足される意味ではありません。周りが低くなった結果、残った部分の高さが際立つことも、地形の発達なのです。

強風が削っている?分かっていることと研究中のこと

アンデスの荒々しい風景を見ると、強風が雪を削り、鋭い刃にしたと考えたくなります。ESOも、かつてそのように考えられていたことを紹介していますが、強風の役割は限定的で、複数の物理現象が関わると説明しています。

一方で、空気の動きがまったく無関係という意味でもありません。2015年の理論研究では、形成初期の模様を調べ、反射光だけでなく、水蒸気の拡散や熱の伝わり方が重要だと示されています。突起の間隔には、氷面の上で水蒸気がどのように混ざるかも関わります。

雪を照らす光、氷から離れる水分、周囲の空気。ペニテンテは、それらのやり取りで形が選ばれていく現象です。「光だけ」「風だけ」と一つに絞るより、複数の条件を合わせて考える必要があります。

どんな場所にできる?乾燥した高地の条件

代表的なのは南米アンデスの高地です。ただし「標高が高ければ必ずできる」「標高4000mを超えると自動的に発生する」というものではありません。

2024年の氷河学の実験論文は、地球の大きなペニテンテが見られる環境として、低い湿度、強い日射、適度な風、晴天が週~月単位で続く条件を挙げています。冷たい雪が残ることと、日光によって雪や氷が失われることが両立する環境です。

同研究では、実験室の低圧環境でmm規模のペニテンテ状構造をつくり、わずかな圧力条件の違いにも形が敏感に反応することが調べられています。実験の数値をそのまま山岳地帯の発生基準にはできませんが、「寒い」だけでは決まらないことを伝える例です。

冥王星にも氷の刃?共通点と違い

ペニテンテの研究は、地球だけにとどまりません。NASAの探査機ニューホライズンズは、2015年の冥王星接近で、刃のような尾根が並ぶ地形を撮影しました。

NASAが2017年に紹介した研究では、地球のペニテンテを説明するモデルを冥王星に適用し、尾根の間隔や向きなどとの一致を調べています。地球の雪原から、遠い準惑星の地形を読み解こうとする試みです。

ただし、地球と同じ水の氷の森が、そのまま巨大化したわけではありません。NASAの天文写真解説は、冥王星の刃状地形を主にメタンの氷でできたものと説明し、昇華による形成が考えられるとしています。

比べる点 地球のペニテンテ 冥王星の刃状地形
主な材料 水の雪や氷 主にメタンの氷
規模 cm~数mほどの例 数百m規模の尾根
共通する考え方 昇華などによる、場所ごとの失われ方の差 昇華による地形形成をモデルで検討

似た形は、同じ環境を意味するとは限りません。それでも、物質や大きさが違う世界に、共通する物理の働きを探せるところが、この研究の面白さです。

ペニテンテと氷筍は同じ?見た目よりでき方に注目

地面から伸びるように見える氷には、氷筍(ひょうじゅん)もあります。しかし、水滴が凍って積み重なる氷筍と、周囲の雪や氷が失われて残るペニテンテでは、形のつくられ方が異なります。

また、海氷の下へ伸びるブライニクルも、別の現象です。「尖っている」「柱のよう」という外見が似ていても、増える氷なのか、削られて残る氷なのかを考えると区別しやすくなります。

ペニテンテは、雪と氷が減る過程で生まれる、意外な彫刻です。先端だけでなく、その間のくぼみまで眺めると、静止した風景の中に光と水分の動きが見えてきます。

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