水平線に夕日が沈む瞬間、太陽の縁が一瞬だけ緑色に見えることがあります。これがグリーンフラッシュ(緑閃光)です。赤やオレンジの夕日の最後に緑が現れる、不思議な光景として知られています。
太陽が突然別の色の光を出すのでしょうか。それとも、海の色が映っているのでしょうか。仕組みの鍵は、太陽と私たちの間にある地球の大気です。発生の原理、見られる条件、日本での観測例を紹介します。
グリーンフラッシュは、大気による光の屈折や色の分かれ方、空気中での散乱などが関わる現象です。日の入りだけでなく、日の出にも起こります。空気が澄み、太陽付近を見通せることが重要ですが、晴れれば必ず現れるわけではありません。
グリーンフラッシュとは?夕日の最後に見える緑色の光
グリーンフラッシュは、日の出や日の入りの太陽付近に、ごく短い時間だけ緑色の部分が現れる現象です。空全体が緑になるのではなく、太陽の上縁などに小さな緑の光が見られます。
国立極地研究所の「昭和基地NOW!!」では、2017年4月の記事で、南極の観測隊員が撮影したグリーンフラッシュを紹介しています。その記録でも、太陽が沈む瞬間に緑色の光が現れ、撮影している間の数秒で終わったと報告されています。
「フラッシュ」という名前から、強い光が空へ勢いよく飛び出す姿を想像するかもしれません。しかし、まず押さえたいのは、太陽の見え方が一瞬変わる大気光学現象だということです。
なぜ緑色に見える?大気がプリズムのように働く
光は色によって曲がり方が少し違う
太陽光には、赤から青までさまざまな色の成分が含まれています。大気を通るとき、光の進む向きはわずかに曲がり、その曲がり方は色によって異なります。
ヨーロッパ南天天文台(ESO)の解説では、大気を巨大なプリズムにたとえています。緑や青の光は赤やオレンジより強く曲がるため、観測者からは少し高い位置に見えます。太陽が地平線付近にあると、このわずかな色の位置の違いが重要になります。
蜃気楼のような効果も、見え方を左右する
色が分かれるだけで、いつでも目立つ緑の光になるわけではありません。ESOは、大気の温度の変化による蜃気楼の効果が、色の分離を拡大する場合があると説明しています。
つまりグリーンフラッシュの原理は、「赤い光が先に隠れるから」という一言だけでは説明しきれません。色ごとの屈折の違いに、大気の層の状態などが重なって、緑色の部分が際立つのです。太陽そのものが、最後の一瞬だけ緑の光源に変身しているわけではありません。
青い光はどうなる?
さらに波長の短い青い光は、大気中で散乱されやすくなります。国立極地研究所は、水平線付近では光が厚い空気の層を通り、青や紫の光が届きにくくなることが、緑が見える理由に関わると説明しています。
ブルーフラッシュと呼ばれる例もありますが、緑よりさらに珍しい現象です。色の違いは、大気中を進む光の経路や、途中で失われる成分まで関係しているのです。
グリーンフラッシュが見られる条件
重要なのは「有名な海岸かどうか」だけではありません。太陽の方向を遠くまで見通せることと、その日の大気の状態が関わります。
| 条件 | なぜ重要? | 注意したい点 |
|---|---|---|
| 太陽付近まで見通せる | 小さな緑の部分が、建物や雲に隠れないため。 | 頭上が晴れていても、水平線付近に雲がある場合がある。 |
| 空気が澄んでいる | 低い位置から届く光が、霞などで弱まりすぎないため。 | 晴れマークだけで透明度は判断できない。 |
| 大気の層の状態が整う | 温度の分布や屈折が、色と太陽像の見え方を左右するため。 | 場所が同じでも、日ごとに見え方が変わる。 |
| 日の出・日の入りの短い時間 | 太陽が地平線付近にあり、色の分かれ方が目立つため。 | 長時間続く光景ではない。 |
国立極地研究所は、澄んだ空気と水平線付近が雲で隠れないことを挙げ、ESOは、遮られない視界と安定した大気を重要な条件として紹介しています。
ただし、これらは出現を保証するチェックリストではありません。条件がよさそうに見えても、現れない場合や、記録できるほど目立たない場合があります。
日本でも見られる?日本海沿岸の研究記録
南極や南の島の写真だけを見ると、日本の本州では無理なのでは、と思うかもしれません。しかし、日本海沿岸にも観測記録があります。
下中記念財団が公開する小山田正幸氏の研究は、山形県鶴岡市の海岸付近から、日本海へ沈む太陽を継続して調べたものです。公開された報告書には、2012年8月3日のグリーンフラッシュをはじめ、太陽の上縁や、雲の間から緑色が確認された記録が載っています。
この研究では、昼間は青空が広がっていても、夕日が水平線へ沈むところまで見通せるとは限らなかったことも述べられています。「晴れ」と「低い太陽まで澄んで見える」は別なのです。
日本で見られるかどうかを考えるときは、地名の人気より、こうした実際の観測記録と大気の条件を見るほうが、現象の理解につながります。
何秒見える?発生確率は決まっている?
国立極地研究所は、日本では1秒程度の短い現象として紹介する一方、南極では太陽がゆっくり沈むため、より長く見られる場合があると説明しています。持続時間は、場所や大気の状態、どの見え方を捉えるかによって変わります。
そのため、「必ず何秒」「世界のどこでも何%」と一律に言い切るのは適切ではありません。発生確率を比較するには、観測した場所、回数、天候、判定の方法までそろえる必要があります。本記事では、それらの条件を確認できない確率の数字は採用していません。
朝にも起こる?幸せになるという話は?
グリーンフラッシュは日没だけの現象ではありません。ESOは、チリのセロ・アルマソネスから昇る太陽の最初の光が緑色に見えた写真も公開しています。海でなければ絶対に起こらない、というわけでもないことが分かります。
また、見た人は幸せになれるという言い伝えがあることも、国立極地研究所の記事で紹介されています。これは文化的な物語であり、光の屈折という科学的な仕組みとは分けて楽しみたいところです。
太陽を直接見続けず、公開写真でも楽しもう
短い現象を見逃したくないからといって、太陽を見つめ続けるのは避けてください。米国眼科学会は、短時間でも適切な保護なしに太陽を見つめると目を傷めるおそれがあり、普通のサングラスは太陽観察には安全でないと説明しています。双眼鏡や望遠鏡、光学ファインダーで直接のぞくことも避け、専門家の安全な観察案内に従いましょう。
この記事で紹介した研究機関の公開写真なら、一瞬の緑を落ち着いて確かめられます。空の光に興味が湧いたら、天使のはしごの仕組みや、ブロッケン現象の光輪もどうぞ。同じ太陽の光でも、空気や雲との関わり方によって、まったく異なる姿が現れます。


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