南極の血の滝はなぜ赤い?凍らない塩水と氷河の下の生命を解説

南極の白い氷河末端を赤茶色の塩水が染める血の滝のイメージ

南極の白い氷河に、赤茶色の水がにじみ出す場所があります。その名も「血の滝(ブラッド・フォールズ)」。写真だけ見ると、氷河が血を流しているようにも見える不思議な景色です。

赤い色の正体は何なのでしょうか。この記事では、血の滝が赤い理由、塩水が凍らずに流れる仕組み、氷の下の微生物を研究機関の資料で解説します。

先に答え
血の滝を染めているのは、氷河の下から出てくる、鉄を豊富に含む塩水です。空気に触れると鉄の酸化に伴って赤くなります。塩分による凍結温度の低下や、水が凍るときに出る熱も、低温の氷河内で液体が存在できる理由に関わっています。

南極の「血の滝」とは?どこにある?

血の滝は、南極のマクマード・ドライバレーにあるテイラー氷河の末端付近で見られる、塩水の流出です。英語名はBlood Falls。ボニー湖の西側に向かって水が流れ、氷や周囲の地面を赤く染めます。

一般的な山の滝のように、常に大量の水が落ち続けている景色を想像すると、実際とは違います。鉄を含む塩水が間欠的に流れ出し、その痕跡も景観を形作っています。

また、「南極の氷はすべて白い」という印象にも注意が必要です。氷そのものの色と、表面に付いた水や物質の色を分けると、写真の読み方が変わります。

血の滝はなぜ赤い?鍵は鉄を含んだ塩水

空気に触れて赤く変わる

国立極地研究所の解説「氷の底(後編)」によると、流れ出した直後の水は無色で、空気に触れると赤くなります。水の中には還元状態の鉄が多くあり、外に出て酸化することが、色の変化につながっています。

身近な鉄さびを思い浮かべると大筋を理解しやすいでしょう。ただし、鉄の塊がそのまま水の中でさびている、という単純な図だけでは、微小な粒子の性質までは説明しきれません。

2023年の研究紹介では「ナノサイズの球状粒子」に注目

ジョンズ・ホプキンズ大学の2023年の研究紹介では、透過型電子顕微鏡で試料を調べた結果、鉄を豊富に含む微小な球状粒子が見つかったと説明しています。

これらは規則正しい結晶構造を持たず、鉄のほかにケイ素やカルシウムなども含んでいました。大まかな「鉄の酸化」という説明に加えて、どのような粒子が赤い色に関係するのかも研究されているのです。

血のように見える名前や印象と、実際に含まれる物質の性質は分けて考えましょう。本物の血液が流れ出している現象ではありません。

極寒の南極なのに、なぜ水が凍らないの?

氷河の中に液体の通り道があることも、血の滝の大きな不思議です。ここでは「純粋な水」と「塩分の濃い水」が同じ条件で凍るわけではないことが重要になります。

アラスカ大学フェアバンクス校の2017年の研究発表では、塩水は凍る温度が低いことに加え、水が凍るときに周囲へ放出する熱が、氷河内の液体の移動を可能にすると説明しています。

「凍るときに熱が出る」というのは意外かもしれません。水が氷へ変わるとき、周囲に熱を渡すためです。地表の気温が低いという情報だけで、氷河内のあらゆる水が完全に凍っているとは決められません。

疑問 主に関わる仕組み
なぜ赤い? 鉄を含む塩水が外に出て、酸化に伴う色の変化が起きる
なぜ液体が存在する? 高い塩分濃度による凍結温度の低下と、凍結時の熱の放出
どうやって外へ出る? 氷河内の通り道や、氷河下の水圧の変化が関係する
暗い場所でも生物がいる? 化学反応からエネルギーを得る微生物が研究されている

氷河の下の水を、どうやって調べたの?

レーダーで塩水の通り道を探る

2017年のアラスカ大学などの研究では、電波を使うレーダー観測によって塩水を調べました。氷と塩水の性質の違いを手掛かりに、氷の内部の構造を探る方法です。

表面の赤い部分を撮影するだけでなく、外からは直接見えない内部を測ることで、「どこから水が来るのか」という疑問に迫れます。

2026年の論文は、流出と氷河の動きを結び付けた

2026年のAntarctic Science掲載論文では、2018年に集められたGPS、タイムラプス画像、湖水温の記録を組み合わせています。

塩水の流出があった時期に、観測点で氷河表面が約15mm低下し、氷河の移動速度にも低下が見られました。研究者は、氷河下の塩水が排出されて水圧が下がることとの関係を示しています。

ただし、観測点や装置の配置には限りがあります。「何が関係しているか」という知見を、あらゆる流出の詳細を完全に予測できるという意味に広げないことも大切です。

光の届かない塩水に、微生物がいる?

国立極地研究所の解説では、鉄や硫黄に関わる化学反応を利用するバクテリアが紹介されています。生き物が利用できるエネルギーは、太陽の光だけではありません。

さらに、イェール大学の2026年8月の研究発表では、血の滝と周辺から採取した試料に、細胞核を持つ真核微生物の多様な系統が見つかったと報告しています。

ここで大事なのは、周辺の試料で見つかったことと、すべてが太古から氷河の下で生きていたと証明されたことは違う点です。研究者も、新たに調べた微生物が古い地下の塩水に由来するかどうかについて、断定を避けています。

生命のしぶとさを考える手掛かりになる一方、出所や歴史を確かめるには追加の調査が必要なのです。

「謎を解明」のニュースが何度も出るのはなぜ?

血の滝については、異なる年に「謎を解明」という見出しが登場します。これは必ずしも、以前の説明が全部間違っていたという意味ではありません。

  • 赤い色に関わる物質は何か。
  • 冷たい氷河の中で、どう水が流れるのか。
  • 流出は氷河の動きとどう結び付くのか。
  • どんな微生物がいて、どこから来たのか。

同じ場所でも、研究が答えようとする問いは違います。発表年だけでなく、調べた対象と方法を見ると、研究の積み重なりが分かります。

まとめ|赤い滝の下には、水と生命の世界がある

血の滝は、鉄を含む塩水が氷河の下から流れ出し、酸化に伴って赤く見える現象です。塩分、凍結時の熱、水圧、微生物という別々の要素が、この景色の理解につながっています。

寒さや氷が意外な役割を果たす現象では、デスバレーの動く石「セーリングストーン」も興味深い例です。見慣れない景色の背後には、身近な物理や化学が組み合わさって働いています。

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