北極星は、北の方角を知るときに頼りになる星です。ところが、何千年、何万年という長い時間で見ると、今の北極星がずっと同じ役割を果たすわけではありません。
その理由のひとつが、地球の歳差運動(さいさうんどう)です。地球は自転しながら、回転軸の向きをとてもゆっくり変えています。約2万6,000年で一周するこの動きと、星空の見え方のつながりを解説します。
地球の歳差運動とは?地軸がゆっくり首を振る動き
地球が回転するときの軸を「地軸」または「自転軸」といいます。歳差運動とは、この地軸の向きが宇宙空間に対してゆっくり変化する運動です。
イメージしやすいのは、少し傾いたコマの心棒が、傾きを保ちながら円を描くように動く様子です。地球も、毎日の自転とは別に、軸の向きを変える長い周期の運動をしています。
現在、地軸は地球の公転面に垂直な方向から約23.4度傾いています。国立天文台は、地軸の向きがその垂直な方向のまわりを円を描くように移動し、約2万6,000年で一周すると説明しています。出典:国立天文台「歳差ってなに?」
地球が1日に一度回るのは「自転」。その回転軸が、長い時間をかけて別の方向を向くのが「歳差運動」です。
なぜ地球は歳差運動をするの?
地球は赤道付近が少しふくらんでいる
地球は完全な球ではなく、赤道付近がわずかにふくらんだ形をしています。このふくらみに太陽や月の引力が働くと、傾いた地球の向きを変えようとする作用が生まれます。
回転している物体では、外から受けた作用によって回転軸の向きが変化します。地球の歳差運動も、そのような回転の性質と、太陽や月から受ける引力の組み合わせで理解できます。
太陽と月の引力が、地軸の向きを変える
NASAは、地球の赤道のふくらみに月と太陽の重力が働くことが、歳差運動を生むと説明しています。地軸を引き起こそうとする作用があっても、回転する地球の軸はすぐに真っすぐになるのではなく、方向を少しずつ変えていきます。出典:NASA「Nutation and Precession」
コマとのたとえは、軸の動きを思い浮かべる助けになります。ただし、地球が床の上のコマのように、勢いを失って倒れかけているという意味ではありません。地球では、どのような力が働くかを分けて考えることが大切です。
回転する物体の基本的な性質は、ジャイロ効果とコマが倒れにくい理由の記事でも紹介しています。
歳差運動で北極星が変わる理由
天の北極は、地軸を空へ延ばした先
地球の自転軸の北側を、空の向こうまで延ばした先の方向を「天の北極」といいます。現在の北極星は、この天の北極の近くにあるため、ほかの星と比べて位置がほとんど変わらないように見えます。
しかし、歳差運動で地軸の向きが変わると、天の北極の位置も星々に対して移っていきます。その結果、時代によって天の北極に近い星が変わり、北極星の役割を果たす星も入れ替わるのです。
今の北極星を空で探したい方は、北極星の見つけ方もご覧ください。
昔の北極星と、未来の北極星
米国海軍天文台(USNO)は、紀元前2500年ごろには、天の北極がりゅう座のトゥバンの近くにあったと説明しています。また、国立天文台は、こと座のベガなどが将来の北極星になる例を挙げています。
これは、星が地球の北極へ向かって飛んでくるという話ではありません。ここで重要なのは、地球の軸が星空のどの方向を指すかの変化です。「北極星」は、ある星が永久に持つ役割ではないのですね。出典:USNO「The Seasons and the Earth’s Orbit」
自転・公転・歳差・章動の違い
地球には、時間の長さも、動き方も異なる複数の運動があります。何が動くのかを比べると整理しやすくなります。
| 運動 | 何が変わる? | 時間の目安 |
|---|---|---|
| 自転 | 地球自身の回転 | 約1日 |
| 公転 | 太陽のまわりの地球の位置 | 約1年 |
| 歳差 | 地軸が向く方向の大きな巡り | 約2万6000年 |
| 章動 | 歳差に重なる、地軸の小さな揺れ | 複数の短い周期がある |
NASAの説明では、歳差の大きな動きには、月の軌道などの影響による小さな揺れも重なっています。これが「章動(しょうどう)」です。地軸の動きを細かく見ると、完全になめらかな円をたどるだけではないことがわかります。
また、軸の「向き」が巡ることと、傾きの「大きさ」が変わることも区別しましょう。地軸の傾斜角そのものが長期的に変化する運動は、歳差とは別に扱われます。
2万6000年は、すべての周期に共通する数字?
約2万6,000年は、地軸が遠くの星々に対して向きを巡らせる周期のおおよその値です。ところが、地球の公転軌道の向きも変化するため、何に対する変化を測るかによって、別の周期が登場します。
NASAは、地軸の向きの変化に加え、公転軌道の楕円の向きの変化も説明しています。季節と太陽への最接近の関係を考える場合は、その両方が関わります。資料に2万年台の異なる数字が出てきても、同じ運動を同じ基準で比べているかを確認しましょう。出典:NASA「Milankovitch Cycles」
星空は、見る地球の動きでも変わる
1晩の星空観察では、歳差による変化を目で実感するのは難しいでしょう。それでも、長い時代を隔てた空を比べたり、精密な天体の位置を扱ったりするときには、地軸の向きの変化が重要になります。
NASAも、地球の自転・公転に加え、歳差や章動などを理解することが、天体の観測を扱う基礎になると説明しています。出典:NASA「Reference Systems」
地球側の動きが星の見え方に関わる例としては、年周視差で星の距離がわかる仕組みもあります。こちらは地球の公転に伴う観測位置の変化が鍵で、地軸の向きが変わる歳差とは異なる現象です。
まとめ
地球の歳差運動は、自転軸の向きが約2万6,000年かけて一周する、とてもゆっくりした運動です。太陽や月の引力が関わり、長い時間の中で天の北極の位置と、北極星の役割を担う星が変わります。
今夜、北の空でほとんど動かないように見える星も、遠い未来の人々にとっては違う位置に見えるはずです。星空を見上げるとき、足元の地球もまた静かに向きを変えていると考えると、宇宙の時間の長さを感じられます。


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