山の斜面に、巨大なスプーンですくったようなくぼみがある。谷底は広く、両側には切り立った岩壁が続く。こうした景色には、今は見えない氷河の働きが刻まれていることがあります。
氷河地形とは、氷河が岩盤を削ったり、運んだ岩石や土砂を堆積させたりしてできる地形です。代表的なカール・U字谷・モレーンは、形も生まれ方も異なります。
この記事では、氷河地形のでき方と3つの違い、日本で見られる例を、山の景色を読み解く視点で紹介します。
氷河地形のでき方|動く氷が山を変える
氷河は、長い間に積もった雪が氷へと変わり、自分の重さでゆっくり流れるものです。硬い氷も、大きな力が長くかかると内部で変形します。条件によっては底面でも滑り、低い方へ移動します。
この動きが、地面を変える力になります。底に取り込まれた岩のかけらが岩盤をこすり、割れ目のある岩をはぎ取る働きも加わります。削られた破片は氷に運ばれ、氷が融ける場所などに残されます。詳しくは米国国立公園局の氷河地質の解説でも紹介されています。
「削ってできたくぼみ」か「運ばれたものが積もった地形」か。この違いを押さえると、氷河地形を整理しやすくなります。
カール・U字谷・モレーンの違いを比較
| 地形 | 主なでき方 | 形・位置の特徴 |
|---|---|---|
| カール(圏谷) | 氷河による侵食 | 谷の上流部などにある、おわん状のくぼみ |
| U字谷(氷食谷) | 谷を流れる氷河による侵食 | 谷底が広く、横断面がU字に近い谷 |
| モレーン(堆石) | 氷河が運んだ岩石・土砂の集積 | 氷河の脇や末端などに見られる堆積物。堤状になるものもある |
カールとU字谷は山が削られた形、モレーンは運ばれた物質に注目した呼び名です。3つが同じ山域で見られることもあります。
カールとは?山をすくったようなくぼみ
カールは、日本語で「圏谷(けんこく)」とも呼ばれます。山の高い場所で氷河が斜面を削り、奥に急な壁を持つ、おわんや円形劇場に似たくぼみをつくります。
氷河が小さくなった後も、くぼみ自体は残ります。底に湖ができる場合や、雪のない季節に草地が広がる場合もあり、「氷がないから氷河地形ではない」とは限りません。米国雪氷データセンター(NSIDC)は、カールを氷河が削った丸いくぼみとして説明しています。
日本の代表例は、中央アルプスの千畳敷カールです。中央アルプス国定公園の公式解説では、氷河時代にできた地形として紹介され、周辺にはカールやモレーン、氷食谷が残るとされています。現在の緑豊かな景色から、過去の氷に覆われた山を想像できる場所です。
U字谷とは?川がつくるV字谷と何が違う?
U字谷は、谷を満たして流れる氷河が、谷底だけでなく側面も削って広げた谷です。谷を横から切った断面を考えると、底が広く、両側が急に立ち上がるU字に近い形になります。
山地の川は流路の底を深く削り、斜面の崩壊などとともにV字型の谷をつくることがあります。一方、厚い氷は谷の広い範囲に接しながら流れるため、もとの川の谷をさらに広げ、形を変えることがあります。
ただし、現実の谷はきれいなアルファベットにはなりません。岩石の性質やその後の侵食も影響するため、断面だけでなく周囲の地形も合わせて調べます。
南アルプスの魚無沢では、幅の広いU字谷とモレーン群が確認されています。静岡市の解説は、氷河がなくなった後、川の侵食によって谷の形が変わりつつあることも紹介しています。地形は完成したまま止まっているわけではありません。
モレーンとは?氷河が残す岩と土砂の目印
モレーンは、氷河が運んだ岩石や砂、細かな土砂などが集まったものです。山をくりぬいた穴ではなく、物質が集積した場所に注目します。
氷河の両脇にできるものを側堆石(ラテラルモレーン)、末端付近にできるものを端堆石(エンドモレーン)と呼びます。氷河が消えた後、石や土砂の低い尾根として残る場合もあります。こうした位置の違いはロッキーマウンテン国立公園の解説でも示されています。
モレーンは、かつて氷がどこまで届いたかを考える手がかりになります。ただし、岩が盛り上がっていれば何でもモレーンというわけではありません。崖崩れなどでも似た地形ができるので、堆積物や周囲の様子を調べて判断します。
写真を見るときは「奥・谷・脇」を探す
山の写真では、まず谷の奥に丸く囲まれたくぼみがあるか、次に谷底が広いか、最後に脇や手前に石の帯があるかを見てみましょう。カール、U字谷、モレーンを、景色の中で別々に探す練習になります。
写真だけで成因を断定することはできませんが、地名や現地の地質解説と照らし合わせると理解が深まります。山の「形」と、それを構成する「物」を分けて見るのがコツです。
氷河が「後退」すると、氷は逆向きに流れる?
氷河の後退とは、末端の位置が上流側へ移ることです。氷そのものが山を登って戻るという意味ではありません。下流へ氷が流れてきても、末端で融ける量がそれを上回れば、先端の位置は後ろへ下がります。
グランドティトン国立公園の資料(PDF)も、この流れと末端位置の違いを説明しています。残ったモレーンと現在の氷の位置を比べると、変化の跡を読み取れる場合があります。
氷が消えても、山には記録が残る
氷河地形の面白さは、今そこにない氷の働きを、景色から考えられることです。おわん状のカール、幅広いU字谷、岩や土砂が集まったモレーンを組み合わせると、かつての山の姿が見えてきます。
地形を変える力は、氷だけではありません。水が石灰岩を溶かすカルスト地形のでき方や、風が地面を削るヤルダンの仕組みと比べると、同じ「不思議な形」でも、異なる自然の働きが隠れていることが分かります。


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